印刷物: 2009年7月アーカイブ

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日本全国で発行されているフリーペーパーの数はなんと千種類を超えているらしくて、総発行部数は2億を越えているそうです。

 

先日、「幻の」フリーペーパーといわれた「美少女図鑑」シリーズの長崎版を、手にとって眺める機会がありました。

 

無料のわりには質感的に完成され過ぎていて慣れない感じがありますが(ボクの持つフリーペーパーの概念がついていかない)、コンセプトは面白いなあと思っていたので、興味深く眺めさせていただきました。

 

無料でもらえて、保存可能なキチンとしたつくり。自分や友達かもしれない同じ年代の普通の子がモデルになれる身近さと、高い発行部数による露出への期待や満足感。かんっぜんに対象読者から外れているボクでも、手にする若い女性はさぞ楽しいだろうなと想像がつきます。たしかに、流行る理由が揃っていますよね。

 

ただ、これはボクだけかもしれませんが、あからさまな宣伝広告がほとんど見当たらないのにも関わらず、一見してお金のかかっていることのわかる「無料の媒体」について、瞬間的に遠慮したい衝動に駆られてしまうことがあります。

なぜだろうと考えると、出資しているであろうどこかの企業や業界組織の広告経費が企画自体を起こしてしまったような、情報誌本来の意義とは逆の雰囲気を、無意識のうちに探してしまうからのようです。

 

それはホットペッパー系のわかりやすい営利の仕組みから享受できる明るいサービスとはちょっとちがう感覚といえます。

 

ところで最近は「リトルプレス」と呼ばれるローカルな手づくり雑誌が見直されて、全国の各誌が注目されているそうです。かなり古くから刊行されているものもあったりしているから、人々が社会を形作るための生活にしっかり根付いて、本当に必要とされている内容を提供し続けているということでしょう。

 

もちろんフリーペーパーではないので、こちらはきちんと読者に料金を払ってもらう。企画・編集・制作・営業にかかる経費を、内容の対価として正当に売り上げることができているのです。

大手の有料雑誌が軒並み休刊に追い込まれるなか(STUDIO VOICEも終わりました)、なかなか面白い現象だと思いませんか。

 

長崎人の生活にダイレクトに根ざすような、いきいきとしたリトルプレス、創刊が待たれます・・・

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人々が望む新しい「自由」はいつでも、時間の経過と共にいつしか束縛を生むことになるようです。

なぜなら新しいものは歴史や様式を徐々に排除してゆきますが、実はその瞬間から「モダン」と捉えられた新しい活動の歴史が始まり、やはり同じように朽ちてゆく道を辿り始めるからです。

麹屋町のスタジオPHOTO STYLEによる「写真」を通した創作活動は、写真家松村琢磨氏の常に沸き立つ新たな感情を大切にしながらも、一方では古典といわれる基本的な品質を尊重し続ける姿勢が、その不の連鎖を止めてゆくことを可能にしているように見えます。

今回封筒用にお作りしたロゴデザインは、そんなところを表現したいと考えました。

ベースとして採用した<アヴァンギャルド・ゴシック体>は、20世紀タイポグラフィ界の第一人者であり、自由と個性を何よりも大切にしたハーブ・ルバーリンによって作られたもの。

モダンデザインはバウハウス運動によって世界へと広がりましたが、主流となったその新しい闊達なデザインは逆に隣り合う書体の自由を奪う結果を招きました。

いち早くその事象に気付いて警鐘を鳴らしたのがルバーリンであり、デザインの中に感情や歴史、そして様式の復権を促した彼は、デザイナーにとってのよりよい環境整備のため、誰もが簡単に使える書体を提供し、現在私たちが自由に扱える背景を提供した人物なのです。

60年代後半にそのルバーリンがギンズバーグと手掛けた「Avant Garde」というカッコイイ雑誌があって、今回のロゴはその代表的な書体をアレンジして、古いレコードジャケット風にスクエアの中に収めました。

素材はクラフト系のナチュラルな素材を使って古き良き!的な温かみを、インクは一色にして、お仕事の信念をあらわすようにシンプルなイメージを大切にしました。

松村さんはとても気さくで、作品同様、軽薄に飾ることを嫌う方です。
今回アレンジした特別なタイポグラフィの40年の歴史が、写真を手に取った現代のお客様にどのような印象で伝わるのか、考えると楽しくもあり、緊張もしてくるのです。

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